急性炎症は、感染、外傷、熱傷、虚血、化学刺激などに対して短時間で起こる防御反応である。組織の異常をマクロファージや肥満細胞が感知すると、サイトカインやヒスタミンなどが放出され、血管拡張と血管透過性亢進が起こる。その結果、発赤、熱感、腫脹、疼痛が生じ、好中球を中心とした炎症細胞が病原体や壊死組織を処理する。刺激が除去されれば炎症は収束し、組織修復へ移行する。急性炎症は、障害を封じ込め、除去し、治癒へつなげる初期防御機構である。
急性炎症の機序
急性炎症は、感染・外傷・熱傷・虚血・化学刺激などに対して、短時間で立ち上がる防御反応である。目的は、異常部位を検知し、血流と免疫細胞を集め、病原体や壊死組織を除去し、修復へつなげることである。
1. 異常の検知
組織に病原体や細胞障害が生じると、免疫細胞は異常シグナルを認識する。
感染では、細菌・ウイルス由来成分が PAMPs として認識される。
組織障害では、壊死細胞から放出されるATP、尿酸、HMGB1、ミトコンドリアDNAなどが DAMPs として認識される。
これらをマクロファージ、樹状細胞、肥満細胞、血管内皮細胞などが感知し、炎症反応が開始される。
2. サイトカインの放出
異常を感知した細胞は、炎症性サイトカインを放出する。急性炎症で重要なのは、主に IL-1β、IL-6、TNF-αである。
IL-1β
局所炎症を強め、発熱、血管内皮活性化、白血球動員に関与する。
好中球が血管外へ移動しやすい環境を作る。
TNF-α
血管内皮細胞を活性化し、接着分子の発現を増やす。
これにより好中球や単球が血管壁に接着し、炎症部位へ移動しやすくなる。
IL-6
肝臓に作用し、急性期蛋白の産生を誘導する。
CRP、SAA、フィブリノゲンなどが増加し、全身性炎症反応を形成する。
3. 血管反応
サイトカイン、ヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、一酸化窒素などの作用で、炎症部位の血管に変化が起こる。
血管拡張
局所の血流が増加する。
これにより、発赤と熱感が生じる。
血管透過性亢進
血漿成分が血管外へ漏れ出しやすくなる。
アルブミン、補体、凝固因子、抗体などが炎症部位へ到達し、腫脹が生じる。
血管内皮の活性化
内皮細胞に接着分子が発現し、好中球が血管壁に接着しやすくなる。
この段階で、炎症は「血液中の防御因子を局所へ運び込む反応」として本格化する。
4. 好中球の動員
急性炎症では、最初に主役となる細胞は好中球である。
好中球は、血管内皮への接着、血管外への遊走、炎症部位への移動という順に動く。
移動の方向は、IL-8、C5a、LTB4、細菌由来ペプチドなどの走化性因子によって決まる。
炎症部位に到達した好中球は、病原体や壊死組織を貪食し、活性酸素、酵素、抗菌蛋白を使って処理する。
5. 補体の活性化
補体は、急性炎症を増幅する血漿蛋白システムである。感染や抗体反応、病原体表面などをきっかけに活性化される。
主な経路は3つある。
- 古典経路:抗原抗体複合体、CRPなどで活性化
- レクチン経路:微生物表面の糖鎖をMBLやフィコリンが認識して活性化
- 第二経路:微生物表面でC3が持続的に活性化される
補体が活性化されると、炎症に重要な分子が生じる。
C3a、C5a
アナフィラトキシンとして働き、肥満細胞を刺激して血管透過性を高める。
特にC5aは強力な好中球走化因子であり、炎症部位へ好中球を呼び寄せる。
C3b
病原体表面に結合し、オプソニン化を行う。
これにより好中球やマクロファージが病原体を貪食しやすくなる。
C5b-9(MAC)
膜侵襲複合体を形成し、一部の細菌などの膜を傷害する。
特にグラム陰性菌に対する防御で重要である。
6. 急性期蛋白の産生
局所の炎症が全身へ伝わると、肝臓で急性期蛋白の産生が変化する。主な刺激は IL-6 であり、IL-1βやTNF-αも補助的に関与する。
CRP
細菌、壊死細胞、リン脂質成分などに結合し、補体古典経路を活性化する。
また、オプソニンとして働き、貪食を助ける。急性炎症の代表的な検査項目である。
SAA
炎症初期に速やかに上昇し、HDLと結合して脂質輸送や免疫細胞動員に関与する。
CRPより早く変動する場合があり、炎症活動性の鋭敏な指標となる。
フィブリノゲン
凝固系に関与し、炎症部位の封じ込めや組織修復に関係する。
血沈を亢進させる要因にもなる。
ハプトグロビン
遊離ヘモグロビンと結合し、酸化障害を抑える。
炎症時に増加するが、溶血が強い場合は消費されて低下することもある。
α1アンチトリプシン
好中球エラスターゼなどの蛋白分解酵素を抑制し、過剰な組織障害を防ぐ。
7. 病原体・壊死組織の除去
好中球やマクロファージは、貪食、活性酸素、リソソーム酵素、NETsなどにより異物を処理する。補体によるオプソニン化が加わることで、貪食効率は高まる。
この段階では、防御反応と同時に組織障害も起こりうる。
膿は、好中球、壊死組織、細菌、血漿成分が混ざった結果である。
8. 炎症の収束と修復
刺激が除去されると、炎症は収束へ向かう。
好中球はアポトーシスを起こし、マクロファージに処理される。マクロファージは炎症促進型から修復型へ性質を変え、IL-10、TGF-β、脂質メディエーターなどを介して炎症を抑える。
その後、線維芽細胞、血管新生、細胞外基質の再構築により修復が進む。
刺激が除去されず炎症が続くと、慢性炎症へ移行する。
全体像
急性炎症の流れは、次のように整理できる。
異常検知
→ サイトカイン放出
→ 血管拡張・透過性亢進
→ 補体活性化
→ 好中球動員
→ 貪食・殺菌・壊死組織除去
→ 急性期蛋白による全身反応
→ 収束・修復
検体検査との接点
急性炎症では、以下の検査項目が病態の把握に使われる。
炎症反応:CRP、SAA、白血球数、好中球数
細菌感染の示唆:PCT、好中球増多、左方移動
補体反応:C3、C4、CH50
急性期反応:フィブリノゲン、血沈、ハプトグロビン
組織障害:LDH、AST、ALT、CK
重症化評価:乳酸、Dダイマー、凝固系、腎機能、肝機能
急性炎症は、局所では血管反応と好中球動員、全身ではサイトカインと急性期蛋白、血漿中では補体活性化が連動して進む防御システムである。